面白かったミステリ2018(ネタバレなし)

歯車
読書の総括。

前書き

ぼくは読書と言えば95%ミステリしか読んでいない。
ミステリのレビューって書くの難しいんだよな。

本当においしいところは読んで味わってくれという他ないけれど、多少は筋に触れないと話すことができない。
そのギリギリさが難しい。

もうすでに読んだ人と面白さを分かち合うのか、それともこれから読む人に面白さを示唆するのか。
後者でいきたいので、ネタバレはしない。なるべくギリギリを突いて書くつもりだ。

読んだ本は忘れてしまうから、今年の記録として最後にやっておこうと思う。
ちなみにぼくが読んだのが今年というだけで、発刊された時期は特に考慮していない。

作者の敬称略。

黒田研二 - さよならファントム

かなりよかった!
黒田研二という作家を知らず、初めて読んだのがこの作品でラッキーだったと思う。

事故で大怪我を負った若きピアニスト・新庄篤。それから三ヶ月。ようやく歩けるようになった当日に妻の裏切りを知った彼は、激情のあまり彼女を殺してしまう。すべてを失い、命を絶つため家を出た篤だったが、ひょんなことから美少女・ココロと行動を共にすることに。彼女の周りでは命を落としかねない危険な事件が続いていた。一方、街では連続爆破事件まで発生! 篤の運命は!?

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できたらあらすじも自分で書きたかったのだが、端的にツボを押さえるのが難しかったので公式なものを引用した。
これは書いていい? これは書いちゃダメ? ミステリはそれが繊細なジャンルだが、この作品はその中でも際立ってそうだ。

スピーディな展開だが、その実読者に見えているものはラストに気持ちよく裏切られる。
そんなミステリの気持ちよさを濃縮したような作品である。

作品のタッチも重くないので、普段読書をしない人でも読めると思う。

七河迦南 - 七つの海を照らす星

前項に続いて月並みだが、かなりよかった!
鮎川哲也賞作品を掘っていくきっかけになった作品だ。

家庭では暮らせない子どもたちの施設・七海学園で起きる、不可思議な事件の数々。行き止まりの階段から夏の幻のように消えた新入生、少女が六人揃うと“七人目”が囁く暗闇のトンネル…子どもたちが遭遇した奇妙な事件を解明すべく、保育士の北沢春菜は日々奮闘する。過去と現在を繋ぐ六つの謎、そして全てを結ぶ七つ目の謎に隠された驚くべき真実。第18回鮎川哲也賞受賞作。

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連作短編集で、ちいさな謎が最終話で大きな絵を描く。
っていう形式は特に珍しくはないのだけれど、その伏線の緻密さに驚かされる。
デビュー作でこんなにも繊細な構成が作れるのかと思わず舌を巻く。

ちなみにこの七海学園を舞台にした作品はシリーズとなっているのだけれど、続編を読むとさらに驚愕、どこまで設定を練っているんだと笑えてくるほどだ。

家庭の事情で施設に暮らす子供たち、というテーマは少し陰があるし悲しい側面も見られるけれど、それでも希望の光に向かって歩いていくという爽やかな読後感もいい。

沼田まほかる - 彼女がその名を知らない鳥たち

もやもやとした厭な読後感のイヤミス、その女王と言われる沼田まほかる
その名に恥じぬどろどろのラストである。

八年前に別れた黒崎を忘れられない十和子は、淋しさから十五歳上の男・陣治と暮らし始める。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治。彼を激しく嫌悪しながらも離れられない十和子。そんな二人の暮らしを刑事の訪問が脅かす。「黒崎が行方不明だ」と知らされた十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始めるが…。衝撃の長編ミステリ。

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エヴァみたいな「どう受け止めたらいいんですか?」的世界観が好きな人はハマると思う。
逆に言うと明るくて爽やかなやつしか読みたくない人は絶対手を出してはいけない。

誰でも持っているけれどしまってある記憶に、そっとメスを入れていくような残酷さがある。

恋愛感情ってホラーだよ。

女性作家じゃないと書けない文章。
散文詩のような独特のリズムで、悪夢のような恍惚が本を閉じても終わらない。

円居挽 - 丸太町ルヴォワール

京都の由緒正しき旧家で行われる私的裁判、っていう世界観が最初は「?」だった。
現代にそんなもんあるのかよと。庶民のぼく。
歴史を感じる設定って苦手なんだよね。

が、そんな心配は杞憂だった。

祖父殺しの嫌疑をかけられた御曹司、城坂論語。彼は事件当日、屋敷にルージュと名乗る謎の女がいたと証言するが、その痕跡はすべて消え失せていた。そして開かれたのが古より京都で行われてきた私的裁判、双龍会。艶やかな衣装と滑らかな答弁が、論語の真の目的と彼女の正体を徐々に浮かび上がらせていく。「ミステリが読みたい!」新人賞国内部門第2位、「このミステリーがすごい!」国内部門第11位。

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祖父を殺したのは誰か? というのと、謎の女とは誰か? というのと、この作品の軸はこのふたつ。
ふたつがじわじわと交錯していく過程で色々な探偵役が推理を披露していき、作中の人物も読者も同時に煙に巻かれる。
終盤で謎が明らかになっていくカタルシスは一級品で、一気読みを約束できるクオリティだ。

カイジのような心理戦の妙を味わいたい人にもおすすめ。

注意点。
ぼくは文学的な雰囲気を持ったものよりキャラ立ちしたエンタメ作品の方が好きだから、これは別に気にならないのだが、苦手な人からするとラノベっぽいという印象になるかもしれない。
でも、先入観なしに読んで欲しいかな。

2018年終わりのあいさつ

割と読んだ端から内容を忘れる。
こういうのは直後に記録すべきだなと思った。

自分のツイッターを見ながら「あ、こんなのも読んだんだっけ」と確認しながら書いた。

ここに挙げたものは本当に間違いなくオススメなので、機会があったら手に取ってみてもらいたい。

今年のベストは、七河迦南の七海学園シリーズかな。
一作読んで他のも読まないわけにはいかない、と思った。

良いお年を。