サンタクロースは宝探しが好き

丸の内のイルミネーション
今年はどんなクリスマスだった?

クリスマスの思い出

シフトの宿命

高校生の頃に付き合っていたSさんは、バイトの先輩であり、学年もひとつ上だった。

バイトしていたのは某ファストフード店で、薄給ながらもぼくなんかを雇ってくれた稀有な存在である(はっきり覚えていないが、ぼくは10連続近くバイトの面接に落ち、近所の店はもうどこも雇ってくれないのではと思っていたが、その話はまた別の機会に)。

ファストフード店はクリスマスがかきいれどきであり、当然休みを取るのが難しい。メンバー総出が基本なのだ。
が、ぼくとSが付き合っているのはみんな知っていたので、厚意によりクリスマスの夜はふたりともシフトをはずれることができた。

ただし、Sは昼間のシフトに入っていたため、もしかすると混雑具合によってはあがるのが遅くなる可能性があった。

狭量の因果

駅で待ち合わせしていたが、時間になってもSは現れない。やはり定時にはあがれなかったのか……?
1時間ほど遅れ(記憶を誇張しているかもしれない。30分かも)、Sはやってきた。

「あがれなかったの?」
「いや、そうじゃないんだけど、家帰ってシャワー浴びてたから」

まあ、分かる。
ファストフード店でのバイトは、あがったあと様々なにおいが体に染みついていて、直接デートに行くのはためらわれる。綺麗に、万全の状態の自分にしたい。
そんな乙女心も今なら分かるんだ。ましてやクリスマスだしな。

が、当時のぼくは
「いやそのまま来ればよくね? 別に臭くても嫌いにならないし。つーか俺鼻ばかだし」
と思ったし、言った。

「ごめん。でもやっぱクリスマスだからちゃんとしたくて」

今考えると器の小さい男でしかないが、ぼくは機嫌を悪くし、だんまりを決め込んだ。
怒ると口数が減るのだ。嫌なやつ。

丸の内の慟哭

電車に乗ってイルミネーションを観に行く予定。丸の内のルミナリエ。しかし車中会話ゼロ。
どうすんのこの空気。

東京駅につくも、二人の会話はない。およそ1時間ほど無言タイム。

ついに泣き出すS。

これは今でも変わらないのだけれど、泣かれると弱い。
というか、その頃にはぼくも遅れてきたことはどうでもよくなっていたのだが、一旦怒ってしまった手前こっちから歩み寄るのもなんか違うし、どうしたらいいものか困っていたのだ。
だから、次、もう一回「ごめん」が出たら「てってれー。どっきりでした~」みたいに茶化して終わろうと思ってたのに……

「わかった! わかった! もういいから! 俺が悪かった! もう怒ってないから泣くな! メリークリスマス!」
「ううう……」
「怒ってないから! ごめんって!」なんでぼくが謝ってんだよ。「ごめんな! もう泣くなって!」

というわけでさんざんぼくが謝ってそのうちに「クリスマスなのに俺たち何してんだろうな」と笑えてきて、何事もなかったかのようにイルミネーションを観たのであった。

地元の駅前

帰り道、二人の最寄り駅に着くとSが手紙を渡してきた。
なに? と訊くと「いいから今すぐ読め」と言ってにやにやしている。

『メリークリスマス ポストを調べろ』

なんじゃこりゃ?

駅前にポストがあり、それのことかなと調べてみると、直方体の下の面に何かが張り付いている。
紙だ。なんだなんだ。

剥がしてみる。

銅像を調べろ』

駅の広場に花壇があって、そこに銅像がある。
なんだこいつ。何を仕掛けてきてんだ。っていうかいつの間にこんなもの仕込んだんだ。
Sは相変わらずにやにやしているが、何も言わない。

銅像の足元、ちょうど植え込みに隠れるようなところにまた何かある。

紙と、鍵だった。

『ロッカーがゴール。215』

ははーん。

ぼくもにやにやしてSを見る。最高潮にSはにやにやしていた。

ロッカーの215番をその鍵で開けると、ぼくが欲しがっていた財布が入っていた。

「お前こんなのいつ用意してたんだよ?」
「え、ちょっと前、新宿に行ったとき、買った」
「いや財布じゃねえわ。この仕掛けの方な」
「それは昨日の夜。もしかしたら、誰か見つけて開けちゃうんじゃないかとか思って、ずっとそわそわしてた」

さいですか。
クソ寒い中わざわざ前日夜中に駅まで仕込みに。

本当、小さいことで怒るもんじゃないよな。

後日譚

Sとはぼくが18歳の頃別れた。
最後に会ったのは5年くらい前だが、今でも時々電話をしたりはしている。なんやかんやで腐れ縁というか。
元彼氏彼女というよりも良き友達、な関係になっている。

Sは一度入籍したのちバツイチになっていて「男なんかもう」みたいな感じ。
幸せになってほしいものである。