ボヘミアン・ア・ゴーゴー 前編
顎が外れやすい。
始まりはミラノダービー
初めて顎が外れたのは、高校1年だか2年だかの時だ。
友人宅でウイニングイレブンに興じていた際、彼の母親が大きな丸いお菓子、ひなあられの突然変異の化け物みたいなものを持ってきてくれた。
ハーフタイムにそれを食べようとしたが大きすぎて噛めない。
口の中で転がしていたら溶けて丸くなるかなと、一口に全部放り込んで、後半キックオフ。
一進一退の攻防を繰り返していたが、相変わらずお菓子は噛めなかった。
お菓子自体は溶けてなくなりかけているのに、噛むという行為ができない。
友達がぼくの顔を見て笑い始め、写真を撮って見せてきた。
これが顎が外れるという状態か。
しかしウイイレはいいところだったのでとりあえず試合を終わらせ(勝ち)、それから顎をどうするか思案した。
親父が歯科関連の仕事をしているので、相談する。
仕事の流儀
顎が外れる歯を噛み合わせることができなくなるので、食いしん坊のデブキャラみたいな喋り方になる。
親父に電話すると診てやるから帰ってこいと言われ、ぼくは早く治したいよりもこの顔で外歩くの嫌だなが先行し間延びした顎を撫でたものだが、まあ、帰った。ママチャリに乗って。
自営である親父はぼくが帰宅すると顔を見て思い切り笑った。
ぼくは少しキレそうになったが、親父に治してもらわねば永遠に顎がはまらない恐れもあったために、心を落ち着けながら「あごが、はふれまひた」などとアホ丸出しで報告する。
その道のプロフェッショナルはどんな仕事をするのか。
やはり素人にはできないやりかたがあるのか。
と思いきやタオルを口の中に突っ込んで顎を手で掴んで力任せにああでもないこうでもないと動かし始めるからかなり早い段階で「歯科でも顎をはめることに関しては素人に毛が生えた程度じゃねえか」と気付いたものの発声もおぼつかず非難もできずああとかううとかうめくだけだった。
いてえよ。
「これ、俺じゃ無理だな」
口角がタオルで擦り切れてもいるし、顎も痛いし、何も得るものはないまま親父は諦めた。
またキレそうになったぼくであるが、この顔でキレても明らかにピエロなので、心を落ち着かせる。
病院に行け、と言われた。
ハナからそうしたかったな、と思った。
仕事の流儀reprise
病院に行くとなぜか心電図や脈拍などが測られた。
こんな仰々しい装置をまとったことは、人生でも数えるくらいしかなかった。
顎が外れるというのは、死にも至るのか?
まあしかし、今度はマジのガチのプロフェッショナルたちがぼくの顎に挑むわけで、これだけ大仰なシステムの元なのだから、うまいことやってくれるだろう。
という期待感をよそに、医師がタオルを口に突っ込んで顎を手で掴んで力任せにああでもないこうでもないとやりだしたために、絶望感に襲われる。
デジャヴにも程があった。
「うーん。力抜いてくださいね」
やかましいわ。この状況で力抜けるやついるか!
「ちょっと無理そうだなあ……うん。じゃああれ使うか」